Junji In The Rain

自分の音楽、自分の大好きな音楽の話など

リバプールの人

先週、ニュースで相撲を観戦するポールマッカートニーを見た。

一か月程前に演奏させてもらった新宿のライブバーのオーナーは

関係者が知り合いにいたので良い席でポールのライブが見れると嬉しそうに話していた。

リバプールを旅行して、ビートルズゆかりの地を見て回ったこともあると言っていた。

いいですねと答えながら僕の頭に浮かんでいたのはポールとは違う別の人のことだった。

 

24才になる少し前から一年間英会話学校に通った。

一年後にはアメリカに語学留学しようと考えていたので、

小学生の頃以来初めて勉強というものを真剣に必死にやった。

そこにはたくさんの外国から来た講師たちがいて、

その中にリバプールから来ていたヘレンという名前の女性の講師がいた。

僕より一つか二つ年上で音楽や映画が大好きな面白くてとても雰囲気の良い人だった。

 何故か彼女の授業に当たることが多く、リバプールの港町について聞いたり、

他に生徒がいないときには好きな音楽の話をよくした。

 

彼女は元々はザ ラーズのファンでその頃はキャストが一番好きだと言っていた。

有名になる前のキャストのライブに通っていたとも言っていた。

ビートルズキンクスなどに強く影響を受けていたリバプール出身のザ ラーズは

有名なゼアシーゴーズが収録された名作のファーストアルバム一枚を遺しただけで

解散した伝説のバンドで、解散後にラーズのベースだったジョンパワーを中心に

結成されたのが90年代のブリットポップのブームの頃にブレークしたキャストだった。

 

ラーズは好きだったけれど、キャストの曲は何度かTVかラジオで聞いて、

特に良くも悪くもないという印象だったのでアルバムも聞いたこともなかったのに、

ヘレンにキャストは好きかと尋ねられた僕は大好きですと即答し、

草加駅のCDショップでキャストのアルバムを買って帰って聞いた。

彼女の満足げな笑顔を思い浮かべながら聞いた感想は、

やっぱり特に良くも悪くもないという感じだった。

聞いている途中で、当時一緒に住んでいた兄が帰ってきて、

これは誰か尋ねられたので、わざと少々不機嫌そうにキャストとぶっきらぼうに答えた。

 

リバプールからはいろんなバンドが出てきたけれど、ビートルズは別格として

僕が一番好きなのは80年代のギターロックバンドのペイルファウンテンズ。

ヘレンにペイルファウンテンズについて尋ねると、名前しか知らないと言ったので、

彼らの良さについて説明しようとしてみたけれど、その頃の僕の英語力では

どのように話せばよいか全く分からず、耳の後ろの辺りが熱くなってくるのを

感じながら、格好悪くもごもごと口ごもることしかできなかった。

あの時ほど勉強のことなんか考えもせずに悪友たちとほっつき歩き回っていた

十代の頃の自分を張り倒してやりたいと思ったことはなかった。

 

何年かぶりにキャストのアルバムを出して聞いてみた。印象は前と同じだった。

途中でやめて、ラーズを聞いて、それからペイルファウンテンズを聞いた。

イルファウンテンズの青臭さはやっぱりいいなと思った。

今ならこの感じを上手く伝えられるだろうかと考えていたら、

また耳の後ろの辺りが熱くなってくるような感じがしてきたので、

CDをかたずけて、コップを洗って、煙草を一本吸ってからその夜は眠りにつきました。